ある日突然さらわれ、10年間幽閉された男が、その犯人と理由を追うサスペンス。
これだけ聞くと面白そうなんですが…。
主人公は、ある日突然さらわれてビルの一室に閉じ込められます。
そして、そのままなんと10年間監禁されてしまいます。
誰が、何の目的でそんなことを…?
10年もの時間を奪われた主人公は、犯人と理由を探して戦い始めるのでした。
掴みはもうこれ以上ないぐらいバッチリですね。
謎だらけのストーリーにぐいぐい引き込まれます。
また、主人公は監禁されている間も淡々と体を鍛え、いつ来るかも知れないチャンスを待ち続けています。この不屈の精神力と逆境を乗り越えて手に入れた肉体で黒幕を暴き、対決していく…。
ハードボイルドな男の魅力に溢れています。
主人公は解放されていきなり部屋に泊めてくれて抱かせてくれる、都合の良い女の子と出会います。しかし、いくら主人公が魅力的でもこんな女の子はいないでしょう。これには「なんだ、ただのご都合主義じゃん」と失笑してしまいました。
…しかし、実はこれが伏線だったとは…。これは完全にやられました。
さて、主人公は犯人と頭脳戦を繰り広げて正体を暴いていき、物語はやがて黒幕との直接対決へと移っていきます。
犯人が分かるまでは本当に面白い。
まあ、ツッコミどころは割とあるんですが、そんなものは全く気になりません。
僅かな手掛かりを手繰り寄せて謎を解いていく展開に夢中になります。
ですが、黒幕が分かってからそれが一気に萎んでしまいました…。
なんといっても、黒幕に全く魅力がない。
言動がただの小物にしか見えません。
正体不明のときは大物っぽかったのに、なぜ…?
そして、黒幕との直接対決も緊張感に乏しい。
黒幕が主人公を監禁したのは恨みがあるからなのですが、その理由を主人公は覚えていません。そこで黒幕は、それを思い出す勝負をしろと言い出します。
そして、主人公は昔の思い出を探して回るのでした…って。
は???
頭脳戦は?ハードボイルドは?
これまでの緊張感を返せ!!
しかも結局、その理由がなんというか…全く共感できない。
客観的に見るとしょーもなさの極地としか思えない。
いや、推測できるんですけどね、作者の意図は。
多分、こんな些細に見える出来事でこれ程までの憎悪を抱く黒幕の異常さを表現したかったんでしょう。また、一見些細に見えても、この出来事が黒幕と主人公の特異性から特別な意味を持つんだということも。
ですが、小学生時代の主人公と黒幕の特異性は全く描写されないし、説得力がありません。
物語にのめり込めた読者はこれで納得して、名作だと思うのかも知れませんが…。
途中で少し冷めて距離を取ってしまった私にとっては、ただの尻すぼみの駄作に思えてしまいました。
ちなみに、映画化されて色々賞を取っているようですが、「長期間監禁された男が、犯人と理由を探す」というプロットのみ同じで、その犯人像や理由は違うようです。
そりゃそうだよなあ…。そこだけ見たら抜群に面白かったもの。
だから、そこから後を書き換えれば面白いままいける、ということなんじゃないですかね。
映画版はいずれ観てみたいですね!