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あらゆるものを一口レビュー

【ブックレビュー】「暗夜行路」志賀直哉 評価:☆☆☆

近代文学の最高峰とも言われる、志賀直哉唯一の長編小説。

題材は好みではなかったのに、割と面白く読めたのが驚きでした。

  

暗夜行路 (新潮文庫)

暗夜行路 (新潮文庫)

 

 

主人公の時任謙作(ときとうけんさく)が、自分の仕事や生き方に悩みながら日々を過ごす姿を淡々とした筆致で描き出します。

 

内容は、ほぼ延々と主人公が悩み続けるだけです。

もちろんストーリーはあるんですが…仕事でスランプになって旅に出たり、恋愛や結婚をして子供が生まれたりと、まあ普通なんですよね。

 

ただ、謙作には出生の秘密があり、それが物語全体を貫く背骨となっています。謙作はその秘密を知って苦悩し、結婚後に事件が起こったときも、それが再び呪いのように浮かび上がって来るのです。

 

謙作が激しく悩み落ち込みながらも、そこから自分の生き方について考え、少しずつ立ち直っていく姿には勇気づけられます。

 

また、この小説で特筆すべきは風景描写です。

 

私は、普段小説や漫画を読むときはストーリーとキャラクターを重視するので、風景描写はナナメ読みでさらっと飛ばしてしまうことが多いのですが、この作品についてはほとんどそういうことがありませんでした。

 

つい引き込まれて読んでしまうのは、文章の美しさと簡潔さのせいでしょう。描かれている風景がまざまざと頭に浮かんで来るので、時間が経って文章は忘れてもその場面が思い出せます。こんな体験は初めてでした。さすが近代文学最高峰…!!

 

また、大正時代の生活について知ることができるのも面白いです。人力車や伝手を頼ってのプロポーズなど、現代とは違う風習が普通に出てきて興味深いですね。

 

人生について考えたり悩んだりする方は、一度読んでみると良いかも知れません。