【漫画レビュー(完結)】「僕のルリユール」小田原みづえ 評価:☆☆☆☆
名家の跡取りでありながらも、その若さから邪魔者扱いされる少年とその家系図を修復される為に雇われた装丁職人の交流。
ほのかなロマンスの香りが漂う名作です。
引用元:小田原みづえ「僕のルリユール」 講談社、2019年
「ルリユール」とは聞き慣れませんが、本の装丁文化やそれを担う職人のことだそうです。
時は昭和2年。17歳の少年・三つ葉 薪(みつば まき)は三つ葉財閥の跡取りとして、緊張を強いられる生活を送っていました。薪は先代が76歳のときにできた子供であり、周りから「アイツが生まれなければ自分が跡取りになれたのに」という目で常に邪魔者と見られ続けていたのです。
そんな三つ葉家で、あるとき家系図を修復する話が持ち上がります。
修復する装丁職人として招かれたのは若い女性・平井 本(ひらい もと)。美しいが変わり者の彼女の仕事に付き合ううちに、徐々に薪の気持ちがほぐれていくのでした。
本作は、何と言ってもヒロインである本の性格が秀逸。
無表情で淡々としている一方、装丁の仕事が大好きで誇りを持っているという職人気質なところがまずきちんと描かれます。
そのため、薪にくっついたり膝枕をされたりと、一歩間違えばあざとさが鼻につきかねない場面でも下心を感じさせません。
それに対する薪のツッコミもテンポ良く、思わずくすくす笑いながら読んでしまいます。
更に、本の秘密という意表を突く仕掛けもあり、それが明らかになってからの展開も面白いです。
読み切りながらキャラクターもストーリーも素晴らしい名作です。