【漫画レビュー(完結)】「焼きたて!!ジャぱん」橋口たかし 評価:☆☆☆
ごはんを超える「ジャぱん」を作ることを夢見て、パン職人を目指す少年の物語。
前半は間違いなく神作!!ですが、後半は…。
農家に育った主人公の東和馬(あずまかずま)は大のお米好き。
ところが、6歳のときに美味しいパンを作るパン屋のおじさんに出会い、ごはんよりも美味しいパン「ジャぱん」を作る夢を聞きます。
すっかり感化された和馬は、自分もジャぱんを作ることを夢見て、中学卒業と同時に東京に出てパン職人への道を歩み始めるのでした。
…と、最初は割と王道な感じで始まりますが、この作品がぶっ飛んでいるのは、パンを食べたときのリアクションです。
世にグルメ漫画は数あれど、この漫画のリアクションはその遙か先(というより斜め上)を行ってます。
初期はクロワッサンを食べて月の形にのけぞるぐらいなのですが、徐々にエスカレートしていき、あまりの美味しさに天国に行ったり、過去を変えてしまったり…
リアリティーとは対極にありますが、漫画ならではという表現が面白いです!
絵が上手いので、余計にそう感じるんでしょうね。
和馬を取り巻く脇役の面々も、強烈なキャラクターで魅せてくれます。
一番は父の夢を継いでパン職人になろうとする河内恭介(かわちきょうすけ)。最初は卑劣な手段を駆使して和馬を蹴落とそうとしますが、逆に和馬に助けられて改心し親友になります。
和馬は天才的な閃きと生まれ持った「太陽の手」で次々と独創的なパンを作り出しますが、河内は努力でその差を埋めていきます。天才と努力家の二人が対立したり協力したりしながら切磋琢磨していく展開は王道ですが、やはり熱くて良いですね!
他にもストイックに道を極めようとする諏訪原戒(すわばらかい)、謎めいた美少女梓川月乃(あずさがわつきの)、容赦のない審査員黒柳亮(くろやなぎりょう)、マッチョな巨体にアフロ、サングラスというヤクザのような風貌の店長松代健(まつしろけん)など、個性的すぎるメンツが揃っています。
さて、ストーリーは大手のチェーン店パンタジアの採用試験を皮切りに、パンタジアの新人戦、世界中の新人パン職人が競うモナコ・カップへと進んでいきます。一方、裏ではパンタジアの経営権を巡って陰謀がうごめき始め…。
と、ここまでは本当に神作です。
ギャグのような要素で構成されながらしっかりドラマも作り込まれているという、奇跡的なバランスが素晴らしい!!
が、その先は何故か一気に駄作と化してしまいます…。
まず、努力家で和馬に並ぶ実力者だったはずの河内が、ただの口先だけのお荷物と化します。ギャグのつもりなのかも知れませんが、これまでの経緯を全て台無しにして河内を貶めているだけに見えて笑えません。
しかも、和馬や月乃たちも、まるで初めから河内が役立たずだったかのように振る舞います。天然だけれども思いやりのあった和馬や、大きな器で店のまとめ役となっていた月乃の面影はありません。
また、リアクションも暴走します。
これまでのリアクションは一部例外はありましたが、あくまでパンの美味しさを表現するものでした。それが現実に影響を及ぼすようになります。人がダムになったり、亀になったり、人の性格を乗っ取ったり…ここまでいってしまうと、もう意味が分かりません。
パン作りではなくリアクションの漫画になってしまっている上にリアクションで何でもアリなので、ストーリーに緊張感もなにもありません。
キャラクターのやり取りを楽しもうにも、キャラクターの性格は捻じ曲げられて、やっていることは全員でとにかく河内を馬鹿にしたり呆れてみせたりしているだけで、見ていて不快感しかありません。
最後も酷いリアクションのオチでした。
モナコカップで綺麗に完結しておけば、誰にでも自信を持ってオススメできる神作だったのに…実に残念です。