【ブックレビュー】「悪の教典」貴志祐介 評価:☆☆☆
もしも、爽やかイケメンの人気教諭がサイコパスだったら…。
高校を舞台にしたノワール(暗黒)小説。
主人公の蓮実聖司は高校の英語教師ですが、他人への共感力が欠落しており、人の気持ちが全く理解できません。そのため、心理学を学んで他人への接し方を徹底的に研究しています。その結果、上司、同僚、生徒やその親とあらゆる方面から絶大な支持を得るに至っています。
私自身が共感力が高いとは言えない方ですので、この辺は分かるところがあるんですよねー。ちょっと蓮実に共感しながら読んじゃいました。
さて、蓮実は邪魔になりそうな者を巧みに排除していき、学園に自分の王国を築いていきます。蓮実が淡々とかつ軽々と他人を蹴落としていくサイコパスな描写や自分への評価も含めて計算された計画に、酷いと思いながらもついつい惹き込まれてしまいました。
ですが、物語が進むにつれて、段々と計画が雑になっていきます。
女子高生が人気教師と恋人になったら、友達に言いふらすのは当たり前やろ!修学旅行でこっそり同じホテルの別室を取って逢い引きとか、ずさん過ぎるやろ!文化祭の準備で2人だけ抜け出すとか、もうバラしてるも同じやろ!!
ツッコミどころ満載。
また、この他の教師と生徒も愛人関係が多すぎて、リアリティの無さにうんざりします。
そうこうする内に突入する後半はもうグダグダですね。
「殺人がバレそうだからクラス全員を殺そう」って発想はサイコパスらしくて悪くないんですが、そこに至るまでの経緯がお粗末すぎてもう…。
前半の頭の良さアピールはどこへ行った?
ただ、生徒全員に極端な個性を持たせなかったのは少し好感が持てました。
こういう殺戮ゲームみたいな話には「そんな奴おるかっ!!」って笑ってしまうような変な個性を持たせる作者が多いですからね…。
まあ、その分「これ誰だっけ?」的なキャラクターが大勢出てきてしまうんですが。
ツッコミどころは多いものの、文章や構成はまともなので読める作品ではありました。
ちなみに、文庫版では数ページのおまけが付いていますが、蛇足ですね。読まなくて良いレベルです。
後、文庫版のあとがきを映画版の監督が書いてるんですが…これが気持ち悪い。
この物語を美しいとか、蓮実を「今」を破壊するヒーローだとか。
こんな小説に影響を受ける人がいるの!?私にとっては、このあとがきの方がよっぽど恐怖でした。